研究概要 |
人間の被験者を対象とした経由点のある腕の到達運動の計測実験,および,計算論的な運動制御モデルを用いて計測された運動軌道を再現する計算機シミュレーションを行った.計測実験では,肩を含む矢状面内において,始点と終点の間に経由点がある到達運動の手先の軌道を計測した.その結果,始点と終点を結ぶ直線に対して対称に配置されたそれぞれの経由点を通過する二つの到達蓮動では,手先の軌跡が対称とならないこと,また手先の速度波形も異なる特徴を持つことが確かめられた.この実験結果は,水平面内における到達運動において従来から確かめられてきたものと同様の傾向を示しており,到達運動が腕の動特性を考慮して生成されていることを示唆している.また,計算機実験では,始点と経由点,およひ経由点と終点を結ぶ二つの二点間到達運動を時聞的にシリアルにつなげることにより,計測実験で得られた人の運動軌道が計算機上で再現できることを確かめた.ただし,人間が行っているような滑らかな運動を生成するためには,前半の二点間到達運動の目標点を実際の経由点と少しずらした位置に設定すること,また実際に手先が前半の運動の目標点に到達する前に後半の運動に切り替える必要があることが確かめられた.これは,経由点のある滑らかな到達運動を二つの二点間到達運動をつなげて生成するために,前半の運動の目標位置および二つの運動を切り替えるタイミングという二つのパラメータを始点,経由点,終点の位置に応じて適切に決定すれば良いことを示す結果であり,運動の開始から終了までの各時刻の目標軌道を決定しなければならない従来の運動計画モデルよりもはるかに少ないパラメータで人間の到達運動が再現できる可能性があることを本年度では示すことができた.
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