12CaO・7Al_2O_3(Cl2A7)はカルシウム・アルミニウム・酸素という地球上でもっともありふれた元素からな酸化物であるが、酸素イオンを包接したナノメートルサイズの籠状構造(ケージ)からなる特異な結晶構造をもつ。そのため、一般には電子伝導性を示さないとされるCaO、Al_2O_3といった典型金属酸化物から構成されるにも関わらず、この籠から酸素を引き抜き、代わりに電子を包接させると、Cl2A7は2.4eVという極めて低い仕事関数を示す金属状態となる。また、最近では0.4K以下と低温ではあるが、超電導を示すことが見いだされている。以上のことから、応用と物性研究の両面でC12A7の電子状態に関心が持たれている。本研究では分光学的手法により、電子の局在状態および非局在状態に関する情報を得ることで、電子濃度の上昇に伴う電子包接Cl2A7の絶縁体(非金属)-金属転移のメカニズムを解明することを狙った。赤外から紫外の領域における光反射率測定により、ケージに局在した電子および結晶内に広がった伝導電子のバンド間遷移に相当するローレンツ型応答と伝導電子のドルーデ型のプラズマ応答を観測した。観測されたスペクトルを解析したところ、ケージ中の酸素イオンの約半分が引き抜かれた段階でC12A7は絶縁体(半導体)から金属状態へと変化すること、および金属状態においても一部の電子は依然、束縛状態にあることが明らかになった。
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