前年度に続き、電子包接Cl2A7に関する研究を行った。当初は、低温おける光反射測定を行い、詳細な電子状態について議論する予定であったが、実現できなかった。そこで、これまでに室温での反射スペクトルの解析により求めらた包接電子濃度を別の方法で評価することにした。電子包接Cl2A7結晶の組成式は[Ca_<12>Al_<14>O_<32>]^<2+>(O^<2->)_<1-x>(e^-)_<2x>(0<X<1)で表わすことができ、ケージに包接された酸素イオン(フリー酸素)が1個引き抜かれると、代わりに2個の電子が包接される。したがってフリー酸素の量を定量できれば、電子の数もわかることになる。フリー酸素の量、すなわちフリー酸素サイトの占有率の変化はX線回折パターン(ピーク強度比)に変化を与えるはずであるが、酸素が軽原子で散乱因子が小さいため、最大でも8.3%にすぎないフリー酸素サイトの占有率が0まで落ちたとしても、精度よく識別できるほどのパターンの変化は観測できない。そこで、軽元素に対し高い感度がある中性子回折を、フリー酸素の包接量の見積に応用した。光学スペクトルの解析からは電子濃度が最大値に達しているとみられる電子包接Cl2A7粉末試料([Ca_<12>Al_<14>O_<32>]^<2+>(e^-)_2)に関して測定した中性子回折パターンをリートベルト解析したところ、フリー酸素が全くないとした場合(電子濃度は最大)にフィッティングの残差が最小となった。また、この試料を酸化させて、通常のCl2A7(Ca_<12>Al_<14>O_<33>)に変化させたところ、1.2%の重量増が観測され、これも元の組成[Ca_<12>Al_<14>O_<32>]^<2+>(e^-)_2であることを示した。以上のことから、光スペクトル解析の妥当性が確かめられ、電子包接Cl2A7の物性の電子濃度依存性を評価する際の指標となりうることが示された。
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