研究概要 |
本研究の目的は,進化ゲーム理論を用いた社会問題の分析を発展させ,集団を問題解決に導く制御手法を確立することである.さらにその結果をネットワークにおけるパケットルーティングやサーバの負荷分散に応用することで,利己的に振る舞うホスト間の利益を調停し,ネットワーク資源をより有効に活用することをめざす.この目的の第1段階として,本年度は,利己的なプレイヤー集団を,統制者が,利得の回収・再配分という手法を用いて目標状態へと制御しようとする状況を表すモデルを定式化し,その性質を調べた. すでに提案している,集団内のプレイヤーの利得を一定の割合で回収するモデルにおいて,統制者をゲームのプレイヤーととらえなおし,集団の状態に応じて介入度を変更する,利得の動的再配分のモデルを定式化した.このモデルでは,統制者の混合戦略を,完全統制と放任という極端な2つの戦略の中間的なものとして定義した.また利得を,集団の状態と現在の介入度に依存するものと考え,介入による利益とコストの和として定式化した.この条件の下で,統制者が,現在の混合戦略によって得られる利得と完全統制によって得られる利得の差に比例して介入の度合いを動的に変更すると考えると,統制者の戦略のダイナミクスも,集団の戦略分布のダイナミクスと同様レプリケータダイナミクスによってモデル化される.このモデルを2戦略ゲームに適用し,平衡点の分岐現象を詳細に分析した.特に目標状態に対応する平衡点の局所的,大域的漸近安定条件を明らかにした. また,一定の割合で回収するモデルとは別に,新たに統制者が一定額の利得を集団内のプレイヤーから回収する(人頭税)モデルを提案した.このモデルが,統制者の介入のないレプリケータダイナミクスにフィードバックを加えた非常にシンプルなモデルとなることを示し,目標状態に対応する平衡点の局所的,大域的漸近安定条件を明らかにした.
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