昨年度は、Co-Cu金属グラニュラー膜を細線に加工し、Co粒子間のスピントランスファー効果を、スピントルクダイオード効果を利用して検出した。今年度は、単一磁性粒子の磁化状態をスピントルクによって制御することを目指し、Fe/MgO/Fe微粒子/MgO/Cr構造2重トンネル接合を作製した。スピントルクの影響を顕著にするためにはMgO厚を1nm以下まで薄くする必要があり、かつ微粒子の飽和特性の悪い磁化挙動のため、磁気抵抗効果が非常に小さくなるが、それでも室温で20%の磁気抵抗比を得ることに成功した。AFM観察により、中間微粒子は約20〜100nmの直径を有することが分かった。この膜を500nm×600nmのピラーに微細加工を施し、一定外部磁場下において電流-抵抗曲線を測定したところ、明瞭な抵抗のヒステリシスが観測された。これは、電流の印加によって中間微粒子の磁化が反転したことを示している。単一の磁性微粒子での電流密度は約1×10^6A/cm^2であり、この電流によって発生する磁場は50e以下程度と非常に小さいことから、電流磁場が原因であるとは考えにくく、スピントルクによる反転であると期待される。しがしながら、単一素子中には10個程度の粒子が含まれているにも関わらず、観測されたヒステリシスは1つのみであった。これは、直径の大きい粒子に集中的に電流が印加されることによる不均一性が原因であると考えられる。今後は、粒子径の均一性を上げ、かつ素子サイズをより小さくすることで、再現性のあるスピン注入磁化反転を実現することを目指し、さらには、高周波電流印加によるスピントルク誘起ダイナミクスの検出も試みたい。
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