本研究では、建物の空調システムの運用において、様々な不具合を迅速に検知し、診断する「フォルト検知診断」と空調システムの制御上の各種設定値を状況に応じて適切なものにする「空調システム運用の最適化」を軸とする省エネ診断ツールを空調システムに実装するため、ツールの開発・改良を進めた。 フォルト検知診断ツールについては、昨年度までに開発したフローチャート形式のツールを改良し、空調システムシミュレーションを用いたモデルベースの手法として再構築した。この手法は、空調時間帯の基準階室内温度、空調システム全体目積算電力消費量、熱源機日積算電力消費量の3項目について、実測値:とシミュレーション値との偏差をとり、あらかじめ計算しておいた不具合状態との比較によりもっとも近いものを探し出すというシンプルな手法である。この手法の有効性を検証するため実施した夏季の実験では、3ケース延べ8回不具合を発生させ、うち7回は最も可能性が高い不具合として検知された。残りの1回も2番目に可能性が高い不具合として検知することができ、手法の有効性を確認できた。 最適化ツールの導入効果については、夏季と冬季に最適化運転と通常運転を数目ずつ交互に繰り返す実験をそれぞれ3週間程度行い、夏季・冬季ともに通常運転時に比べ最適化運転時の運転評価値が向上する結果を得た。夏季は空調時日平均外気温度が32.5℃の時に評価値が14%程度向上し、冬季は空調時日平均外気温度が11℃の時に評価値が19%程度向上する結果であった。さらに、より一般的な建物に最適化ツールを導入した際の効果を明らかにするため、実在の中規模事務所ビルの空調システムをモデル化し、シミュレーションによって検討した結果、2月に11.2%、8月に12.1%、10月に5.1%運転評価値が向上する結果を得た。
|