本研究では、破壊物理を構成する各種実験手法を組み合わせて多結晶金属材料における脆性-延性遷移メカニズムの解明を目指す。そのために、巨視的な力学試験から亀裂近傍の超高圧電顕観察までマルチスケールに渡り実験を行う。本年度の研究期間は約半年であることから、試料作成と力学試験を主に集中して行った。以下にその概要を示す。本年度は、まず低温四点曲げシステムの構築を行った。このシステムでは、四点曲げ治具を断熱材で囲み、内圧を一定に保ったdewarから低温の窒素ガスを曲げ装置の下部より流入させる。この際、ガスの流量を調整することによって、試料及び治具の温度調整が可能となり、77K〜300Kの温度範囲で試験が可能となった。四点曲げ試料として平均結晶粒径が900μmの低炭素鋼を用いた。この試料から、1xlx12mmのミニチュア試験片を切り出し、種々のクロスヘッドスピード(0.5mm/min〜12.5mm/min)における破壊靭性値の温度依存性を77K〜300Kの温度範囲で測定した。測定した破壊靭性値のグラフより、脆性-延性遷移温度が求まり、クロスヘッドスピードの増加と供に、遷移温度が上昇することが分かった。遷移温度の逆数とクロスヘッドスピードの対数からアレニウスプロットをとり、そのときの活性化エネルギーを求めたところ、その値は約0.2eVで有ることが分かった。この値は、転位の移動の活性化エネルギーの値と非常に近く、多結晶材料においても脆性-延性遷移は転位の移動律速であることが明らかとなった。
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