本年度は、ボルト接合部の実験とその有限要素解析を行い、その強度推定手法の提案を行うことと、破壊靱性性能を算出するためのスタンダードな方法を提案することを目的として研究を行った。 ボルト接合部の実験では、オウシュウアカマツ・カラマツ・スギを用いて、ボルト径・端距離をパラメータとした実験を行った。その結果、端距離が短いものは脆性的な破壊が見られ、長くなるにつれて、「ほぼ脆性的」、「延性的」と破壊性状が変化していく傾向が見て取れた。また、実験においてき裂発生荷重を確認した所、最大荷重に対しておおよそ0.47〜0.97程度であることが分かった。また、カラマツを対象として、有限要素解析により、破壊性状毎にその耐力を推定する手法について検討を行った。脆性破壊に関しては両側切欠き引張試験の結果から算出される破壊限界応力σc、延性破壊に関しては、き裂発生荷重をCT試験から算出されるJcをクライテリアとして用いることで、検討を行った。その結果、脆性破壊の場合の最大荷重と延性破壊のき裂発生荷重を上記のそれぞれの方法によって、おおよそ推定できることが明らかとなった。 次に、破壊靱性値を算出するためのスタンダードな方法を提案することを目的として、樹種・試験体の厚さ・初期き裂の長さをパラメータとしたCT試験を行った。その結果、破壊性状は、「脆性」「非脆性(本研究の中での定義)」「延性的」の3種類の破壊性状に分類することができた。Merkle等が提案している式を用いて破壊靱性値J_<IC>を計算した結果、試験体パラメータによってその影響を受けることがわかった。その結果、既往の研究成果と同程度の値かつモードIが安定的に得られる状態は、厚さが94mm以下、かつ無次元き裂長さa/Wが0.5以上であることが必要であることが分かった。また一部SEMによる破面観察を行った結果、延性的な破壊をするものは繊維の乱れが少なく破壊性状が見られる一方、脆性破壊の場合は、繊維の乱れが大きいことが分かった。このように、安定的に破壊靱性値を求めるための条件とその条件を満たした場合の破壊性状の相関性が示唆された。
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