研究概要 |
制御系が経年劣化などで望ましい挙動を示さないとき,通常は制御器の再設計が行われるが,組み込みシステムでは制御器の再設計は困難なことが多く,仮に可能な場合でも劣化が制御対象に由来するのでパラメータの再同定が必要となる.本研究では同定で用いる検査信号を印加し,その応答信号を解析することで,設計仕様を満足するような入力信号の補償法を開発している.この方法は従来の2自由度制御器とは異なり,未知なシステムに対しても適用できる点が特徴である. 昨年度はN4SID法を用い,1回の同定実験で得られた入出力信号で構成されるHankel行列をLQ分解することで,複数回の同定を行ったのと同等の仮想的な入出力信号が生成できることを明らかにした.しかし,この方法ではk個の基底信号を生成するのに5k-1点と,多量のデータ点数が必要であった.そこでMOESP法を用いることで必要なデータ点数の削減を行う. MOESP法を用いた場合も,Hankel行列を用いて行列入出力方程式により入出力関係を定義することができるが,これには可観測行列と未知な初期状態行列との積で表される零入力応答の影響が混在するため,LQ分解のL行列からは純粋な入出力信号を生成することができない.そこでこの問題の解決に取り組んだ.まずL行列の各ブロック行列を用いて行列入出力方程式を定義する際に,部分空間同定ではシステムの次数nの決定に用いるブロック行列を前述の可観測行列とみなし,これと適当なパラメータ行列との積で零入力応答が再現できることを明らかにした.つぎにL行列が下三角行列であることを利用してパラメータ行列を簡単な逆行列演算で推定する手法を導いた.こうして2k+3n-1点のデータ点数でN4SID法と同様の基底信号を生成できることを明らかにした.本成果により,従来の半分以下のデータ点数で補償入力を設計できるようになった.
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