世界規模で深刻化する石油資源枯渇および地球温暖化等のエネルギー・環境問題。これら諸問題の根本的解決には石油依存社会からの脱却が必要であるとの考えから、本研究では植物バイオマスベースのアルコールをエネルギー源とした熱サイクル論的にも高効率な圧縮自着火噴霧燃焼エンジンシステムの確立を目指している。本研究は上記システム実現のキー技術である着火燃焼制御法の確立に向け、アルコールの噴霧混合気形成・自己着火・燃焼という一連の物理化学メカニズムの解明を目的としている。 これまで本研究で行ってきた理論検討および実機関を用いた着火・燃焼特性試験結果から自己着火現象を支配する要因には燃料の熱物性・特性に関る内部要因(特に理論空燃比と蒸発潜熱)と噴霧を形成する際の周囲ガス状態(圧力、温度、酸素濃度)に関る外部要因があることはわかっていた。そこでH19年度は先ず自己着火に及ぼす内部要因の影響を調べるため、エタノールに溶解性が良好で且つエタノールと燃料物性の異なるジエチルエーテル(エタノールに比べ理論空燃比が大きく蒸発潜熱が小さい)を混合し、その混合割合を変化させた燃料を用いて噴霧可視化実験を行った。その結果、ジエチルエーテルの混合割合が大きいほど、つまり燃料の理論空燃比が大きく蒸発潜熱が小さくなるほど、着火遅れ(燃料噴射開始から自己着火するまでの時間)が短くなることを確認した。この結果は実機関を用いた実験結果と同様の傾向を示しており、「アルコール噴霧の自己着火現象を支配する内部要因が理論空燃比と蒸発潜熱である」ことを基礎現象の観点からも実証した。以上の成果は第45回燃焼シンポジウムおよび第16回微粒化シンポジウムにて発表済みであり、現在日本機械学会論文集への掲載に向け執筆中である。
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