研究の全体構想は、高齢者が要介護や独居となっても生活の質(以下、QOLと略す)を維持したまま住み続けられるヒューマンスケールな近隣環境を評価することを目的とし、高齢者のQOL指標に「近隣環境への愛着」を据え、それと生活スタイルとの関係を分析することである。本研究では、その初期段階として、高齢者が愛着を持つ近隣環境の特性について調査する。平成19年度に行った予備調査の結果から、高齢者が愛着を持つ場所を分析するには、きめ細やかなインタビュー調査からエピソードが生まれた場面を抽出することが重要であること、様々な生活スタイルのうち、独居についての調査を優先的に進める必要があることがわかった。そこで平成20年度は愛知県A市内に住む独居高齢者8名を対象にしたインタビュー調査を行い、肯定的な感情のあるエピソード場面を「愛着場面」として分析することで、近隣環境への愛着の実態を探った。その結果、1)自宅近くにあって散歩などで立ち寄りやすい公園、神社、路地で愛着場面数が多いこと、2)診療所などの顔なじみと出会う場所で愛着場面が生まれやすいこと、3)近所や友人とつきあいのよい高齢者は愛着場面数が多く、愛着の発生には物理的な場所要件だけでなく社会的な関係性も関わっていること、などがわかった。これらの成果は、近年問題となっている独居高齢者の閉じこもりを地域で改善する際の基礎データとなる点で意義がある。さらに、今後、家族と同居する高齢者との比較分析も行うことで、同居から独居へと生活スタイルが変化しても愛着を持ち続けられる近隣環境についての評価や指針の開発につながることからも重要な結果を得ることができた。
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