研究概要 |
構造材料は多数の結晶粒からなる多結晶体として構成され,その機械的特性は材料内部の組織によって大きく異なる.転位と結晶粒界は,各々が材料の変形に大きく寄与するとともに,互いの相互作用は材料全体の性質を決定する最も重要な因子である.本研究では,対応粒界や小傾角粒界,ランダム粒界を含めた様々な粒界構造における特性について,原子・転位論的解析手法を用いて粒界構造や変形メカニズム,転位との相互作用などの定量的な評価を行った. まず,Al,CuのΣ3〜Σ11の低Σ値の対応粒界に対して,第一原理計算を用いた粒界エネルギーの評価を行った.その結果,d軌道が閉殻なCuに対して方向性の強いp軌道の特性によりAlの方が安定な粒界を形成することがわかった.この傾向はMishinによるEAMポテンシャルでよく再現されることから,古典分子動力学法によりΣ99までの対応粒界・ランダム粒界を構築し,構造因子の検討を行った.対応粒界についてはHRTEMによる観察結果によく一致することを示すとともに,観察例の少ないランダム粒界に対してはボロノイ多面体解析により,粒界部で不均質なアモルファスライクな構造をとることを示唆した.また,刃状転位が安定なΣ3粒界と相互作用する際には,Peierlsポンシャルに対して非常に大きなエネルギー障壁を越える必要があることを定量的に示し,転位は粒界面に沿ったDSC格子転位と粒界に垂直なステップ転位に分解して低いエネルギー障壁で粒界すべりを引き起こすことがわかった.小傾角粒界との相互作用に関して,離散転位力学法と境界要素法のメゾスケールモデルを構築し,粒界からの転位の射出にについて結晶粒の回転角の影響や自由表面からの距離に対する影響を定量的に示した.このように転位と多様な粒界構造を含む系に対して,原子・転位論的手法を用いて構造特件およびマクロな力学特性を体系的に理解することができた.
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