飛行時間型質量分析法とは、生体分子イオンに高電圧を印加することにより加速、飛行させたときの飛行時間を計測することにより、生体分子試料の同定を行うものであるが、正碓な測定であることは当然重要である。本研究において提案された電場勾配型イオン加速法は、イオン加速部において、イオンの加速方向とは逆勾配の高電場を生成し、イオンの初期エネルギーおよび初期位置を強制的に揃えてやり、あるタイミングで高電圧パルスを発生させてイオンを加速することにより、高い質量分析精度を目指したものである。当該装置の加速部は、3枚の電極から成り、1段目と2段目の電極には、パルス立ち上がり時間が100ns、出力がそれぞれ7777Vと7000Vの高速高電圧パルスをあるタイミングで印加することが可能となっている。3段目の電極には0-6222Vの直流高電圧が印加されるが、この直流高電圧が、電場勾配型イオン加速法において、逆勾配の電場として機能することになる。静電場シミュレーションにおいては、3段目の電極が0Vであっても6222Vであっても、イオンの軌道およびに質量分解能に有意な差は確認されなかったが、実際に電位を0Vから徐々に上げてゆくと、検出されるイオン数が明らかに減少することが確認された。ゆえに、3段目の電極に直流電圧を印加しておくと、イオンが加速部に侵入できなくなると言える。電場勾配型イオン加速法を実現させるためには、イオンが加速部に侵入した後、まず3段目の電位をパルス的に6222Vまで上昇させ、その電位を保つことにより、イオンの初期エネルギーおよびに初期位置を揃えてやり、次いで1段目と2段目に高電圧パルスを印加する必要があると考えられる。
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