コルチコイドは浸透圧調節、ストレス応答あるいは性成熟などにかかわる多機能なステロイドホルモンでもあるが、その生理学的機能の詳細については未解明な点が多く残されている。これまでの研究からコルチコイドの標的細胞においてはステロイド代謝酵素の一つである11β-水酸基脱水素酵素(11β-HSD)の働きがコルチコイド調節に重要であることが分かっている。哺乳類では1型と2型11β-HSDが存在しコルチゾルの標的器官で相互に作用しあうことにより、コルチゾル量を必要に応じて最適化する働きがあることが示唆されている。そこで本研究では、ニジマスを用いてサケ科魚類には哺乳類と同様に2種類の11β-HSDが存在し、海水・淡水適応時にコルチゾルを必要に応じて鯉にて局所的に調節することにより、真骨類の浸透圧調節機能を制御しているとの仮説を検証している。ニジマスでは哺乳類2型11β-HSDオーソログの単離が完了しているが、1型11β-HSDのオーソログはまだ単離されていない。しかしながら、ゲノムデータベース上では真骨類に3型11β-HSDという遺伝子が存在することが明らかになっており、遺伝子配列の系統解析により3型は1型の祖先型の可能性が高いことが分かっている。そこで本研究では平成19年度にニジマスより3型11β-HSD遺伝子のクローニングを試み、3型11β-HSD様遺伝子の全長を単離することに成功した。次に3型11β-HSD様遺伝子の組織分布を解析したところ、鯉で特異的に発現していることが明らかになった。さらに小麦胚芽無細胞タンパク質合成システムを用いて3型11β-HSD様遺伝子の合成を行い、その酵素活性の解析を試みたが得られたタンパク質に酵素の活性が見られなかった。そこで平成20年度は動物性培養細胞を使い、3型11β-HSD様遺伝子を発現させることにより酵素活性の解析を継続して行う予定である。
|