最近、多くの呼吸鎖酵素において基質であるキノンとは異なる酵素結合型キノンが分子内の電子伝達に関与していることが報告されているが、酵母ミトコンドリアのシングルサブユニット・NADH-キノン酸化還元酵素(ndil)においても結合型キノンが存在することが明らかとなり、この結合型キノンが酵素からミトコンドリア内膜への電子伝達を顕著に促進し、さらに酵素からの活性酸素の生成を抑えることを発見した。これらの結果は、結合型キノンが生理的な条件において酵素活性発現および活性酸素の生成抑制に非常に重要な役割をしていることを示唆するが、その分子機構については十分な解明がなされていない。より詳細なキノン還元反応の分子機構を理解するためにはNdilのキノン結合部位の同定が不可欠であったため、本研究では部位指定変異法によりキノン結合部位の同定に関しての解析を行った。Ndil(513残基)の保存性の高いアミノ酸残基の変異体を部位指定変異法により調製し、基質であるキノンの結合に関与するアミノ残基の同定を試みた結果、特にAsp383のカルボキシル基がキノンの結合に関与し、またLue195の疎水性側鎖は活性発現に重要であることが予想された。さらにGlu242変異体はキノン非結合型酵素と同じく基質阻害を示したことから、Glu242は基質結合部位近辺に存在し分子内電子伝達に関与していることが予想された。これら3つのアミノ酸残基はndil結晶構造中(未発表データ)においてFADの近傍にあるNADH結合部位とほぼ同位置に存在することから、キノンとNADHの結合部位が同じ位置にあることが予想されたが、キノンの反応生成物であるユビキノールがNADHを非競合的に阻害することから、両基質の結合部位が仮に近い位置にあったとしても空間的に重複していないことが示された。
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