研究概要 |
平成20年度4月から3月において,東シナ海海域(長崎県五島列島周辺海域)の合計48サンプル,広島大学練習船豊潮丸平成20年度第2次調査航海(広島県呉港〜沖縄県那覇港往復,平成20年5月19〜29日)において,合計29サンプルを検鏡した。その中から,主にCeratium属について29種133細胞,ディノフィシス目渦鞭毛藻類について6属32種65細胞を観察・単細胞PCR処理を行った。日本における定期的な外洋性渦鞭毛藻類の出現調査・観察記録はなく,今回の結果は東シナ海日本周辺域における外洋性渦鞭毛藻類相とその多様性を示す,また,2年連続で同じ時期,同じ地点において採水をしているため各種の季節的消長をも示し得るものとして重要であると言える。 これまで,ディノフィシス目渦鞭毛藻類6属32種(Dinophysis5種,Ornithocercus3種,Histioneis2種,Parahistioneis1種,Amphisolenia1種,Triposolenia1種)のSSU rDNA配列とLSU rDNA部分配列の決定に成功した。系統解析の結果,ディノフィシス目の単系続性が示され,5つのクレード;(1:Amphisolenia,Triposolenia,(2:D. rotundata, D. rudgei,(3:D. schuetti, D. fortii, D. infundibulus,4:Ornithocercus spp.,5:Histioneis spp., Parahistioneis)))に分かれた。クレード2はPhalacromaの特徴を有しており,Phalacromaの独立性が示された。藍藻類を細胞外共生体として持つグループは,クレード4と5に分かれた。また,それらの持つ藍藻のSSU rDNA配列の決定にも成功し解析したところ,ホストのクレードと対応して2つに分かれ,それぞれ異なる藍藻類を細胞外共生体として獲得したことが明らかとなった。さらに,ホストと共生体は種特異的な関係であることも明らかとなった。本研究での分岐順はこれまでの研究において形を基に考えられてきた進化の道筋とは大きく異なり,ディノフィシス目渦鞭毛藻類の形態進化は複雑であり,形態の変異は突発的であり,我々の想像を超えるものであった。Ceratium属についての系統解析の結果は,現在設立されている4つの亜属(Ceratium属,Amphiceratium亜属,Archaeceratium亜属,Tripoceratium亜属)を初めて指示した。
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