本研究課題の目的は、雑種形成が生物多様性の進化・維持を駆動しているプロセスを明らかにすることである。雑種形成によって種の多様性は、増える場合も減る場合もある。近縁種が交雑し融合して「種分化の逆転(speciation reversal)」が起こると種多様性は下がるだろう。逆に、雑種個体群が第三の種として確立し「雑種種分化(hybrid speciation)」が起こると種多様性は上がるだろう。当該年度では、種分化の逆転と雑種種分化のどちらが起こるのかが、環境の異質性によって決まるという観点から研究をすすめた。まず、これまでに報告された野外研究のレビューを行い、(1)環境の異質性が低いところでは雑種形成により種分化の逆転が起こる傾向にあること、(2)環境の異質性が高いところでは雑種形成により雑種種分化が促進される傾向にあること、を見出した。さらに、このアイデアにもとづいた数理モデルを開発・解析し、種分化率と絶滅率および交雑率によって、地域の種数と環境の異質性の関係が変わることを見出した。これらの結果の社会的意義は大きい。世界の生物多様性の多くが交配後隔離の進化していない近縁種をもつことが明らかになりつつある。それらの種の同一性は、環境の異質性がもたらした分断型選択によって維持されている場合が多い。本研究の結果は、人間活動がもたらす生息環境の均質化は、雑種形成と種分化の逆転によって、生物多様性の減少を加速する恐れがあることを指摘している。これらの成果は、人為改変環境における進化に関する国際誌の特集号に掲載された。
|