MAPキナーゼカスケードにより制御される植物の細胞板形成の分子機構を明らかにするために、(1)下流標的因子の探索と機能解析、及び(2)上流の制御因子の同定を行っていたが、本年度は(2)について重要な知見が得られたため、特にこちらに研究を集中した。これまでに我々は、キネシン様タンパク質(NACK)とMAPキナーゼカスケードからなるNACK-PQR経路が、植物の細胞質分裂の中心的な制御系であることを示してきた。この経路は、NACKがMAPキナーゼカスケードの最初の酵素であるNPK1 MAPKKKと中期以降に結合することにより細胞質分裂時に特異的に活性化されるが、この特異的な活性を制御するメカニズムについては不明であった。昨年度までに、NPK1及び、その活性化因子NACK1は共にin vitroでCDKによりリン酸化されることを示した。本年度はCDKリン酸化サイトに対するリン酸化抗体を作製し、in vivoにおけるリン酸化タンパク質の解析を行った。その結果、タバコ細胞においてNACK1とNPK1のCDKリン酸化サイトはin vivoで中期以前にリン酸化されていることが明らかとなった。また、このリン酸化はCDKの活性に依存していることも分かった。CDKによるリン酸化はin vitroで両タンパク質の直接結合を阻害することから、CDKは両タンパク質のリン酸化を介して、NACK-PQR経路の活性化、つまり細胞質分裂の開始を抑制しているようだ。CDKは細胞周期の進行をコントロールする主要な制御因子であるが、M期の中期以降にCDKが関わっているかどうかについては知見が少ない。今回、CDKがMAPキナーゼカスケードの上流の制御因子として機能することが示されたことにより、CDKが中期以降の進行を厳密に制御する機能も持つという可能性を一つ提示することができた。本研究結果については現在論文投稿準備中である。
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