研究概要 |
概日時計は地球環境に適応するため、シアノバクテリアなどの下等な生き物からヒトに至るまでほとんどすべての生物が獲得している生命現象である。概日時計を持つ最も単純な生物であるシアノバクテリアは、概日時計研究のモデル生物である。シアノバクテリア細胞内における概日振動維持の分子メカニズムをKaiCの分解調節の観点から検証することによって、24時間という比較的長い振動の周期や振幅の安定性機構を探る。本研究は、KaiCの分解機構解明研究の導入部として分解機構を簡便にモニターする系の確立、およびKaiC分解に関わるプロテアーゼの同定を目的とした。Synechococcus elongates PCC 6301のゲノムデータベースから、20種のプロテアーゼ関連遺伝子の情報の検索を行い、これらの遺伝子の網羅的な破壊株の作成を行った。これらの変異体のkaiBCプロモーター活性を測定し、ATP依存性プロテアーゼのClp群(Clp1, Clp2, ClpX)の破壊体でリズムが長周期化する事を示した。さらに、Clpプロテアーゼ群の過剰発現体の作製も行い、概日リズムへの影響を調べたところ、いくつかの過剰発現体(Clp3, ClpR3,ClpR)で、長周期化することが確認された。ClpP2-ClpX, ClpX, ClpP3の過剰発現により、連続明および明暗条件下における生育へ影響を及ぼすことも示された。これらの変異体における、KaiC蛋白質量の変化は現在確認中である。また、シアノバクテリアの時計機構の中枢を試験管内で再現できるin vitroのKaiCリン酸化振動再構築系を利用し、in vivo細胞抽出液中の分解活性測定を可能にした。この結果から、シアノバクテリアの細胞抽出液中には積極的にKaiCの分解を促進する何らかの因子の存在する事が示された。この系を応用し、時間依存的な分解活性や、KaiA,KaiBの存在下における影響、KaiCリン酸化状態への影響、プロテアーゼ変異体における分解活性への影響を詳細に調査する事によって、KaiC分解機構を明らかに出来ると考えている。これらの成果をBMB2008(第31回日本分子生物学会年会、第81回日本生化学会大会合同大会)において報告した。
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