ニコチンアミドヌクレオチド(NAD(P)(H))は、数百に及ぶ酸化還元反応に用いられる補酵素である。本研究は、植物におけるNAD(P)(H)の代謝制御機構の解明を目的としている。これまで、NADK2遺伝子の改変によってNAD(P)(H)量を変動させた植物体では、炭素代謝と窒素代謝の主要代謝物量がNADP量に比例して変動していることが示された。その機構を明らかにするため、炭素代謝の鍵であるカルビンサイクルの酵素群を調査した結果、ルビスコ活性がNADP量と共に変動しており、代謝物量変動の原因であることが示唆された。窒素代謝の重要経路である硝酸還元の代謝物を調べると、変異体では硝酸イオンが蓄積し、アンモニウムイオンが減少していたことから、NADPは硝酸還元に影響していることが推測された。硝酸還元に関わる遺伝子の発現解析では明らかな結果は得られなかったため、硝酸還元の開始直後からのGlnとGluの経時変化を調査した。Gln及びGluの合成量と合成速度は、変異体では減少し高発現体では増加していたことから、NADPは硝酸還元を活性レベルで制御している可能性が示された。さらに硝酸との関係を調べるため、低硝酸条件(1mM)と高硝酸条件(30mM)での生育を比較したところ、低硝酸条件下では生育に差は見られなかったが、高硝酸条件下では高発現体の生育が促進されることが示された。さらに高硝酸条件ではGln量もNADP量に比例して変動したことから、NADPは窒素同化能に関わることが示された。以上の結果から、NADPは炭素・窒素代謝の制御因子であることが明らかになった。現在まで、NAD(P)(H)によって植物代謝そのものを制御する試みは全く行われていない。本研究の成果から、NADPを増加させることで炭素・窒素代謝を促進させ、植物のバイオマスを上昇させる技術への発展が期待できる。
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