研究概要 |
植物に特有なオルガネラである葉緑体はシアノバクテリアの細胞内共生によって生じたと考えられている。葉緑体は分裂によって増殖し、細胞内に維持されるが、その分裂機構は原核型の分裂装置と宿主真核型の分裂装置の両方が関わっていることが示された。本課題では葉緑体の分裂機構および制御機構について遺伝学的手法を用いた解析を行った。 これまでにシロイヌナズナのアクティベーションタギングライン約23,000ラインから、葉緑体の分裂が促進または抑制した変異株を25ライン単離した。次の世代と野生株との間のF1世代における表現型の分離比を調べたところ、優性変異を9ライン、半優性変異を2ライン、劣性変異を14ライン同定した。既知の葉緑体分裂因子の遺伝子座と比較すると、劣性変異の4ラインが新規の遺伝子座にあることが判明した。そのうちの1つの葉緑体が巨大化する変異株について詳細な解析を行った。 新規葉緑体分裂変異株は、くびれを持ち巨大化した葉緑体を有する表現型を示した。T-DNAの挿入位置をアダプターPCRおよびプラスミドレスキュー法で特定すると、機能未知な遺伝子に挿入されていることが分かった。リソースセンターから同じ遺伝子にT-DNAが挿入されたラインを取り寄せたところ、巨大な葉緑体を有する同じ表現型を示した。この原因遺伝子は葉緑体移行シグナルとコイルドコイルドメインを持つ膜貫通タンパク質と推測された。相同性検索の結果、イネ・コケなどの陸上植物で見つかり、藻類・シアノバクテリアには見つからなかった。このことは、新規葉緑体分裂因子が宿主真核細胞由来であることを示唆する。今後、トポロジーおよび既知の葉緑体分裂リングの局在を調べることで、葉緑体分裂因子の局在および機能を特定する。また、他の新規変異株についての解析を行う。
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