葉緑体はシアノバクテリアの細胞内共生を起源とし、その分裂にはシアノバクテリアの細胞分裂装置に由来するFtsZリングの形成が必要である。葉緑体のFtsZリングは、バクテリアと同様にMinDおよびMinEタンパク質によって位置決定される。さらに葉緑体の分裂には、シアノバクテリアに由来する原核型の分裂装置だけでなく、宿主細胞に由来する真核型の分裂装置が必要であることがこれまでに示されてきた。 昨年度に単離した葉緑体分裂変異株から、葉緑体分裂面の決定に必要なタンパク質MULTIPLE CHLO ROPLAST DIVISION SITE 1(MCD1)を同定した。MCD1は葉緑体内包膜に貫通するタンパク質で、葉緑体の分裂面にリング状および表面に分散した点状に局在する。間接蛍光抗体法によりMinDの局在を観察したところ、MCD1と同様に分裂面および表面に局在することが明らかになった。MCD1を欠損するとMinDが分裂面に局在できなくなることから、MinDの局在にはMCD1が必要であることが分かった。MinDタンパク質量によってMCD1のタンパク質量が増減し、mRNA量には変動がないことから、MinDとMCD1は複合体を形成することで安定化することが考えられた。Yeast two-hybrid assayの結果、MCD1とMinDが結合することが分かり、植物特異的なMCD1が原核型のMinDと直接相互作用することで葉緑体分裂面の位置決定を行うことが考えられた。これらの結果は、葉緑体分裂面の位置決定メカニズムにおいて、シアノバクテリアに由来するMinシステムを調節するための新しいタンパク質を、宿主植物細胞が付け加えたことを示唆する。
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