本研究の目的は、生細胞内における特定の内在性mRNA発現量を計測することにより、その動態をリアルタイムに追跡することである。昨年度までに、アンチセンス人工核酸を用いた内在性mRNAの定量法を開発した。まず生きた細胞内に導入した蛍光性アンチセンスプローブと細胞に内在する標的mRNAとのハイブリダイゼーションのカイネティクスを蛍光相関分光法(FCS)で定量的に解析することにより、アンチセンスプローブの標的mRNAとの結合率を測定した。この結合型・解離型濃度の比と、プローブの結合解離定数(K_d)を用いて、個々のCOS-7細胞に発現しているc-fos mRNAの濃度を算出した。その結果、c-fos mRNAの発現量は99.2から752 nM の範囲でばらついており、その平均は274 nM であった。 本年度は、mRNAの検出と定量に用いるアンチセンスプローブの生細胞内における運動性に間する検討を蛍光褪色後回復法(FRAP)により行うとともに、開発した方法を用いて生きた単一細胞内における内在性mRNAのリアルタイムプロファイリングを行った。FRAPによる検討の結果、アンチセンスプローブは生細胞内において自由に運動しており、標的mRNAに関しても停止している成分は検出されなかった。このことは前年度までに開発したmRNA定量法が妥当であることを示している。さらに、内在性mRNAのリアルタイムな追跡として、これまで検出が困難であった初期遺伝子c-Fosの早い応答のリアルタイムイメージングを試みた。COS7細胞に蛍光アンチセンスプローブを導入し、薬物により標的遺伝子c-Fosを誘導したところ、細胞質において内在性c-fos mRNAの発現誘導を追跡することに成功した。
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