研究概要 |
平成20年度には、1. 狂犬病ウイルス蛋白質の発現系の確立、2. 鞘内免疫による宿主反応の解析を行った。項目1に関しては、クローニングしだ狂犬病ウイルスN, P遺伝子を発現ベクターに組み込み、いくつかの哺乳細胞内で各蛋白質を発現させることに成功した。しかしながらそれらの発現が弱く、また用いた抗体による非特異的な反応が強かったため、さらに条件の検討が必要であることが判明した。今後、各ウイルス蛋白質の機能解析を進める予定である。項目2に関しては、マウスに鞘内免疫後、致死量の狂犬病ウイルスを脳内接種する実験を行った。マウスの症状と体重変化を記録したところ、対照群に比べて鞘内免疫マウスの生存率は有意に上昇した。また脳を含む全身諸臓器の標本作製と病変観察、脳脊髄内の蛋白質の発現解析を行った結果、鞘内免疫マウスの脳脊髄内には多量のウイルス中和抗体が誘導されていること、ウイルス接種後早期には鞘内免疫マウスの脳内にも少量のウイルス抗原が検出されることが判明した。以上の結果より、鞘内免疫法はマウス脳内において狂犬病ウイルスの増殖を阻止する効果があるということを実験的に証明することができた。また、鞘内免疫によるマウス体内における全身的な免疫反応を調べた結果、特に脾臓と頚部リンパ節が反応すること、中和抗体の産生を主とする液性免疫に加えて細胞性免疫も活性化していることを明らかにした。以上の実験成績は狂犬病の治療法を確立する上で重要となる基礎的知見である。これらの成果の一部を第56回日本ウイルス学会学術集会および第8回狂犬病研究会にて発表した。また、マウス脊髄背根神経節由来細胞を用いて狂犬病ウイルスの接種実験を行った結果、その他の神経向性ウイルスに比較してウイルス増殖が遅いこと、非神経細胞(シュワン細胞)にも感染する可能性があることが判明した。
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