昆虫の脱皮変態は数種類のホルモンの複合的な作用によって制御されており、そのうちステロイドホルモンである20-hydroxyecdysone(20E)は必要とされる時期に神経ペプチドであるPTTHの刺激により生合成されて脱皮変態を引き起こす。分子遺伝学的手法を利用できるショウジョウバエを材料に用いて、脱皮変態のタイミングの決定の機構や必要とされる情報伝達系について以下の解析を行った。1)PTTHの機能を除去した幼虫の発生様式について解析を行った結果、幼虫の脱皮時に20E生合成は認められるものの生合成時期に遅れが認められ、それに伴う幼虫期間の延長と体サイズの増大が認められた。蛹化決定因子を特定するために、蛹化プログラムの開始を決定するcritical weightを測定した結果、PTTH機能除去幼虫のcritical weightは増加した。これより、従来考えられていたような体のサイズが蛹化を決定するのではなく、PTTHによる20Eの生産時期によって蛹化のタイミングが決定されることが明らかとなった。また、PTTHによって制御されるエクジステロイド生合成機構を明らかにした。2)これまで20Eが脱皮ホルモンとして特徴づけられているが、a-ecdysoneが脱皮変態の過程に必須であることを明らかにした。この過程で、生合成酵素の発現を人為的に操作して分泌される分子種を変化させる"内分泌撹乱法"を確立した。すなわち、a-ecdysoneから20Eへの変換を触媒する酵素を人為的に異所発現させて、体内へ放出される分子種を20Eではなくa-ecdysoneとした。このような操作を施した個体は脱皮の阻害や蛹化時の着色に異常が認められた。また、a-ecdysoneの情報伝達経路を解明する手掛かりとなるエクジステロイド類縁体の合成に成功した。
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