研究概要 |
昆虫の脱皮ホルモンとして,20-hydroxyecdysone(20E)が特徴づけられているが,前駆体のecdysone(E)については,生理作用は明らかにされていない。近年,20Eの生合成酵素が同定されたことから,ショウジョウバエで生合成酵素の遺伝子発現を人為的に制御することにより,ホルモンの分泌操作が可能と考え,Eの機能解析を試みた。前胸腺で生合成されたEは体内へ放出され,末梢組織で生合成酵素Shdによって20Eへと酸化される。これよりShdを前胸腺で異所発現させると,前胸腺内でEが20Eへ変換されるため,Eの代わりに20Eが体内へ放出されると考えられる。このような幼虫を解析した結果、1)1齢での致死率が高かった。2)1齢から2齢への脱皮のタイミングが遅れ,2齢で全て死亡した。3)Eを含む餌の摂取により3齢へ発育したが,全ての個体が蛹化時に死亡した。これより、Eは幼虫の正常なタイミングでの脱皮に必要であることが明らかにされた。さらに、蛹化におけるEの役割を明らかにするために解析を行った結果、1)Eを含まない餌に3齢へ発育した幼虫を移したところ,一部は変態を遂げ成虫へと発育した。2)野生型幼虫にEを摂取させると蛹化率が低下し、蛹化した個体の体サイズが減少した。3)野生型幼虫にEを摂取させると蛹化のタイミングが12時間以上早くなった。以上より,脱皮ホルモンの20Eそのものが発生のタイミングを決定するのではなく、前駆体であるecdysoneが決定因子であること、さらに、発生タイミングの決定に伴って体サイズが決定されることを明らかにした。
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