本年度はまず、前年度に新規にクローニングしたウシ内在性レトロウイルス(BERV)エンベロープのmRNAの正常組織における発現を明らかにした。本遺伝子は、胎盤をはじめ肝臓、脾臓、心臓、腎臓、乳腺といった様々な臓器で発現していることが明らかとなった。さらに、BERVエンベロープのSU蛋白をヒト培養細胞に発現させたところ、本蛋白が約50KDaの分子量であることが明らかとなった。しかしながら、本蛋白のアミノ酸配列をもとに作製した2種類の抗ペプチド抗体は、本蛋白を特異的に認識せず、当初計画していたウシ胎盤組織における免疫組織化学的解析と本蛋白に結合する受容体の同定には至らなかった。一方、マルチスプライシングによって発現するアクセサリー蛋白の性状解析を行ったところ、本蛋白は約20KDaの分子量であり、ウシやブタの細胞では核内に局在し、ヒト細胞では細胞質に局在することが明らかとなった。この結果から、本蛋白は他のベータレトロウイルスやレンチウイルスのアクセサリー蛋白と同様に、ウイルスRNAの核外移行シグナルとして機能する可能性が考えられるとともに、その機能には種特異的なコファクターが必要である可能性が示唆された。本年度の目標であったBERV由来蛋白の生理学的機能の解明には至らなかったものの、本研究の結果は、今後の機能的解析を行う上で必須の知見を提供するものであると考えられた。また、2007年および2008年には、二つの海外の研究グループからBERV遺伝子に関する報告がなされ、BERVが世界的にも注目を集めつつある。これらの報告では、BERV蛋白の解析はなされておらず、本研究の結果は、世界的なBERVの研究を著しく促進するものであると考えられた。
|