研究概要 |
体外成熟培養により,高い発生能を有するブタ成熟卵子を作出するためには,体内と同様に排卵誘起ホルモンであるLHにより卵子の成熟を誘導する必要がある.しかし,体外培養に用いるブタ卵丘細胞卵子複合体(COC)をLH添加培地で培養した時の卵子の発生能は体内と比べ低いことから,体外成熟培養法を改善する必要がある.これまでの研究から,LHの刺激により卵丘細胞のコレステロール合成が活性化されること,その経路を介して分泌されるプロジェステロンが卵子の成熟に重要な因子であることを明らかとしていることから,コレステロール合成に働く酵素の発現に働く転写因子(SREBP)の発現解析を行った. その結果,LHの刺激によりブタ卵丘細胞において,SREBPのサブタイプであるSREBP-2の遺伝子が発現すること,発現したSREBPが核へ移行するために必須のタンパク質であるSCAPの遺伝子が卵丘細胞において発現していることを明らかとした.さらに,LH添加培地にA抑制剤(H89),PKB抑制剤(LY294002),p38MAPK抑制剤(SB203580),PKC抑制剤(CalphostinC)をブタCOCの体外培養時に添加して培養したところ,卵丘細胞におけるSREBP-2の発現がPKBを抑制したときに低下すること,このとき,培地に分泌されるProgesterone量が有意に低下した.このことから,LH刺激により卵丘細胞で発現するSRENP-2はPI3K-PKB系を介し発現し,Progesteroneを分泌させ卵子成熟を誘起させることが明らかになった.また,SREBPの発現を促し,プロジェステロンを効率的に分泌させると,体外培養系で培養したブタあるいはマウスCOCにおいて,細胞内に発現する分泌因子のエンドサイトーシスに必須のSNAP25の発現が増加すること,卵丘細胞の膨潤に必須のEGF-like factorの切断に働くTACE/ADAM17の発現が増加し,卵子成熟が促進されることを示した. これらの結果から,LH刺激により活性化するPKB系を介して発現するSREBPは,プロジェステロンを分泌させ,卵子成熟を促進すると考えられた.今後は,SREBPの遺伝子発現を促した体外培養法で作出した成熟卵子を,精子と体外受精させ,その発生能が向上するかを検討する予定である.
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