ストレス応答(HPA系)の亢進はうつ病発症の勉険因子である。そこで本年度は、ケルセチン(QUE)の抗うつ様活性発現機構に関する知見を得るため、HPA系調節(抗ストレス)作用の検討とその分子機構の解析を行った。水浸拘束ストレス(3h)により、ラット血漿中のコルチコステロン(CORT)および副腎皮質刺激ホルモン(ACTH、CORT誘導因子)濃度が顕著に増加した。興昧深いことにQUE(50mg/kg bw)は、これらの増加を有意に抑制(約80%)した。一方、抗うつ薬イミプラミン(IMI、15mg/kg bw)はCORTに対して抑制作用を示したが有意差は無く、また、ACTHに対する作用も認められなかった。次に、ACTHの上流因子であるコルチコトロピン放出因子(CRH)とアルギニンバソプレッシン(AVP)に対するQUEの作用を検討した。視床下部におけるCRHとAVPの発現は水浸拘束(30、60min)により顕著に増加したが、QUEはこれを有意に抑制した。IMIはAVPの発現に対してのみ阻害作用を示したことから、QUEはCRH発現抑制を介した抗ストレス作用を有していることが明らかとなった。続いて、CRH発現に関与するCREB(正の転写因子)、グルココルチコイド受容体(GR、負の転写因子)およびERK1/2(CREBの上流因子)の活性化に対するQUEの作用を検討した結果、QUEはGR活性化を介してCRHの発現を抑制していることが示唆された。以上の結果からQUEの抗うつ様活性発現機構の一つとして抗ストレス作用が強く示唆された。また本研究は、QUEが脳機能に影響を与えることを初めて示したとともに、一部ではあるものの、その分子機序についても明らかにしたことは大変意義深いと思われる。そして、脳機能調節作用という食品成分の新たな可能性を切り拓く、重要な研究になりうると考えている。
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