(1)本年度の研究では、避妊手術で摘出・廃棄される卵巣から得られる、前胞状卵胞由来未成熟卵子を用いて、新たなイヌ体外受精技術の開発を試みた。すなわち、コラーゲン・ゲルの中にイヌ未成熟卵子を包埋した三次元培養法を長期間行うことで、卵丘細胞の増殖を促し、in vitroで疑似的な卵胞を作製することで卵子の成熟を促進を目指した。その結果、三次元培養でヒポキサンチンを加えた培地を用いることで、卵子の直径が増加し、卵子の生存率が増加することが明らかとなった。さらに、卵胞刺激ホルモン(FSH)を培地に加えることで卵丘細胞が増殖し、in vitroで疑似的な卵胞を作製することに成功した。以上のことから、三次元培養法ではこれまでの方法と比べて長期間の培養が可能となり、疑似的な卵胞を作製することで、未成熟なイヌ卵子を成長させることに成功した。以上の結果をふまえ、今後、三次元培養法で成長した卵子をさらに体外成熟に用いることで核の成熟を促し、さらに、体外受精を行うことで胚の作製を試みる予定である。そして、最終的にはES細胞の材料となる胚盤胞期胚の作製につなげる予定である。 (2)イヌES細胞株樹立を目指して、自然交配した雌イヌから胚盤胞期胚を回収し、そこから得られた内部細胞塊をマウス胎子線維芽細胞と共培養することにより、イヌES様細胞の初代コロニー形成率に成功した。また、この初代コロニーを継代することで、10代目までES様細胞を培養できることが分かった。以上のことから、ある程度安定したイヌES様細胞の培養が可能であることが示さた。今後、さらに培養条件を検討することで、イヌES細胞株樹立を目指す予定である。
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