クロムは耐蝕性、耐摩耗性など優れた特徴を有し、機能性材料として多くの産業に利用されている。産業利用されたクロムは、排水処理の過程で、クロムを含む大量の廃棄物を生じる。本研究では、クロム含有産業廃棄物からクロムを単離し、再利用するために、体内にクロムを集積する性質をもつ原生生物ミドリゾウリムシを用いて、クロム吸着性物質を同定・精製する事を目的とした。以下、平成20年度の成果と現在までの進捗状況を記載する。クロム吸着性タンパク質のスクリーニングに先立ち、まず初めに、クロム処理したミドリゾウリムシからタンパク質を抽出する条件の検討を行った。予備的なこれまでの実験の結果から、クロム存在下では、ミドリゾウリムシの増殖が期待できないため、処理開始時のミドリゾウリムシの個体数および処理時間が重要になる。通常、ミドリゾウリムシ数の測定は、適当な容量中のミドリゾウリムシ個体数を実体顕微鏡下で目視により測定し、個体数密度を求める。しかし、測定可能なミドリゾウリムシ個体数密度では、十分な量のタンパク質を抽出できなかった。そこで、定常期のミドリゾウリムシを遠心操作で回収し、ミドリゾウリムシを含む沈殿成分をクロム未処理と処理サンプルに分ける事で、クロム処理特異的なタンパク質の同定を試みた。毎回の実験ごとにミドリゾウリムシの個体数が完全に同じとはいえないが、電気泳動など分析・比較時のタンパク質量をそろえる事によりサンプル間の比較をする事とした。電気泳動の結果、クロム未処理と処理サンプル間では、泳動パターンに相違が見られた。今回は、ミドリゾウリムシの個体数を検討するにあたり、処理時間を24時間に固定したが、今後、処理時間に依存した泳動パターンの変化にも注目する必要がある。発現量に差のあるタンパク質や特異的なタンパク質バンドに関しては、そのアミノ酸配列の解析や精製タンパク質のクロム結合能を明らかにする方向で研究を進展させたい。
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