カイコは、系統によって繭の色が白、黄、赤、緑と様々である。この繭の色を生み出している色素は、幼虫が食べる餌の桑の葉に由来する。桑の葉の色素が腸管で吸収され、腸管から体液へと移行し、体液から絹を作る器官である絹糸腺に運ばれ、絹糸に分泌されることで繭に色は付く。繭の色を支配する遺伝子を同定することは、この色素輸送システムに関与する普遍的な遺伝子群を明らかにすることにつながる可能性がある。つまり、ヒトの網膜黄斑など、色素を取り込み医学的にも重要な部位の維持機構の解明につながる可能性がある。また、繭色遺伝子の同定は遺伝子組み換え技術による着色絹糸の開発にもつながり、繊維・衣料産業への応用も期待できる。以上の背景から、本研究は、絹糸腺への色素の輸送を支配し、繭の色を決定するカイコの遺伝子の一つを、ポジショナルクローニングによって同定し、遺伝子塩基配列を決定することを目的とした。充分な数のBF1個体について、表現型を観察した後、ゲノムDNAを抽出し、DNAマーカーを用いてその遺伝子の座位するゲノム上の範囲を決定した。その結果、繭の色を支配する遺伝子の候補を見出した。候補遺伝子は、病原体認識に関与する遺伝子と類縁関係があった。候補遺伝子のオープンリーディングフレーム全長を決定した。また、候補遺伝子の組織発現分布を調べた。
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