研究課題
野生型のカイコは、餌の桑葉からカロテノイド色素を吸収し、絹糸に輸送することによって黄色の繭を作る。昨年度、このカロテノイドの体内輸送を支配する遺伝子のひとつ黄繭遺伝子(C)をポジショナルクローニングの手法で同定することを試み、候補遺伝子Cameo2を得た。Cameo2は、哺乳類における高密度リポタンパク質(HDL)からのコレステロールの取り込みや、C型肝炎ウイルスなどの病原体の認識に関与することが報告されているスカベンジャー受容体クラスBタイプI(SR-BI)という膜貫通型受容体遺伝子と相同性を有していた。本年度は、このCameo2について解析を進めた。絹糸合成器官におけるCameo2 mRNAの発現を調べたところ、C対立遺伝子を持ち繭が黄色に着色する野生型系統では発現しているものの、C対立遺伝子を持たず白繭を作る系統では著しく発現が抑制されていた。発現抑制の分子機構を黄繭系統と白繭系統を掛け合わせて作出したF1個体のSNP解析によって調べたところ、Cameo2のシス制御配列によって発現が抑制されていることが示唆された。すなわち、白繭系統においては、Cameo2のシス制御配列上に変異が起きていると考えられる。また、野生型のカイコでは、Cameo2が体液リポタンパク質からカロテノイドを絹糸合成器官に取り込むことで黄繭が作られると予想される。今後、この黄繭系統と白繭系統の絹糸腺を組織化学的に比較することで、生体内カロテノイド輸送機構を詳細に解明していくことが可能と思われる。また、Cameo2は繭色を変化させる遺伝的ツールとして用いることができるであろう。
すべて 2009 2008
すべて 学会発表 (3件)