研究概要 |
本研究の目的は、哺乳類生物時計機構の発達過程を明らかにすることである。生物時計機構の指標として、リズム中枢である視床下部視交叉上核および末梢の様々な組織における時計遺伝子発現リズムを生物発光レポーターを導入したトランスジェニックマウス・ラットを用いてリアルタイムに連続測定し、遺伝子発現の発達段階による差を解析した。 これまでの実験結果より、幼弱期マウス培養視交叉上核における時計遺伝子Bma11発現リズムは、非光刺激である培地交換により位相依存的に位相変位するのに対し、成獣マウス視交叉上核においては大きな位相反応はみられないことが示された。この結果は、成熟期においては主要なリズム調節因子は光刺激であるのに対し、幼弱期には母親からの非光シグナルの影響が大きいという生物時計の調節機構の違いを反映しているものと考えられる。また、測定した全ての成獣マウス視交叉上核がはっきりとした概日振動を示したのに対し、約半数の幼弱期マウスは培養初期において二峰性リズムを示した。このことから、幼弱期においては視交叉上核内振動体間の連絡が未熟である可能性が示唆された。以上の結果はすでに国際学会(Eleventh Meeting of the Society for Research on Biological Rhythms, 2008, USA)および英文学術雑誌(Nishide et.al., Eur. J. Neurosci, 2008)において発表した。 さらに、様々な発達段階におけるラット末梢組織の時計遺伝子Per2発現リズムの計測を行ったところ、組織により、発達とともに遺伝子発現位相が変化するものと、胎生期から成獣に至るまで変化しないものに分かれることが示された。今後、発達期においてリズム位相を変化させる因子を解明するための研究を続ける予定である。
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