前年度に四環性コア骨格を備えた重要中間体の合成に成功したので、パラヒドロキシフェニル基の導入を経て、まずは全合成の達成を目的として研究を行った。しかし、さまざまな検討の後、五置換ベンゼン環に対するハロゲン化やリチオ化を経たヨウ素等による捕捉、さらに、様々な四環性化合物を用いてもρ-メトキシフェニル基の導入はできなかった。また、通常の遷移金属触媒を用いる直接的なρ-メトキシフェニル基の導入についてもきわめて困難であることが分かった。 そこで、立体的な制約がきびしい5置換ベンゼン環への置換基導入を断念し、インドリン環の構築と同時にp-メトキシフェニル基の導入の足がかりとなるヨウ素を導入できないかと考えた。すなわち、同様のジブロモベンゼン誘導体に対して、過剰量のLiTMPを-78℃で加えた後に昇温することでベンザインを発生させ、生成した7-リチオインドリンの塩化亜鉛によるトランスメタル化とヨウ素での捕捉により、きわめて立体的に込み入った位置にヨウ素化を行い目的とするヨードインドリンを得ることに成功した。この結果は、従来法では合成困難であった六置換ベンゼン環の一般的合成法になりうるものであり、現在、一般性に関して検討を行っている。 得られたヨードインドリンに対して、順次官能基導入を行うことでディクティオデンドリンBの全合成を達成した。また、これまで合成例がなかったディクティオデンドリンAの世界初の全合成も達成し、今後この結果を論文投稿する予定である。また、本合成経路は合成終盤にさまざまな置換基を収束的に導入できることから、ディクティオデンドリン類の多様な誘導体合成に応用可能であると考えている。
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