私は、インスリン産生細胞である膵β細胞の細胞死の一因として考えられている小胞体ストレスに注目し、研究を行ってきた。2008年3月号のCell Metabolism誌において、培養細胞やモデルマウスを分子生物学的手法で解析し、研究成果を報告した。その中で、蛋白の翻訳抑制を担うEukaryotic init iation factor 4E-binding protein 1(4E-BP1)が、膵β細胞の細胞死から細胞を保護することを報告した。 今年度、4E-BP1にっいてさらに研究を行い、小胞体ストレス下での4E-BP1の転写調節が細胞の種類によって異なること、その原因部位が4E-BP1遺伝子上のエクソン1を含む一部にあることを明らかにした。これについては、現在、雑誌に投稿中である。4E-BP1の転写制御のこの研究成果は、4E-BP1の膵β細胞の保護効果の増強という治療の実現に向け、今後、細胞間の4E-BP1の転写調節の違いを及ぼす蛋白について、分子生物学的な解析を行う。 今年度、私は、ある蛋白が小胞体ストレスによって誘導されることを発見した。この蛋白が、分泌蛋白であることを明らかにし、膵β細胞からも分泌されることがわかった。これまでの実験により、この蛋白が血液中に分泌きれていることが判明し、小胞体ストレスのマーカーとなる可能性があるが示唆された。過去の報告において、小胞体ストレス応答で、分泌蛋白である報告はない。今後、膵β細胞における小胞体ストレスをきたす糖尿病モデルマウスの血液での蛋白量の評価、さらにこの蛋白の作用について解析を行う。
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