研究概要 |
本研究は、口腔の慢性疾患である歯周病と脳心血管障害の発症基盤である動脈硬化性病変上との関連を、地域一般住民において詳細に検討することを目的に、高血圧・循環器疾患に関して世界的実績を挙げている「大迫研究」を基盤に実施した。 近年、動脈硬化性病変と遠隔部位の慢性感染症との関連が注目されており、中でも歯周病はその罹患率の高さから、数多く取り上げられている。本研究では、頸動脈エコーおよびbaPW-V(上腕-足首間脈派伝播速度)により局所・全身双方の動脈硬化の評価を、また口腔内診査(歯周ポケット深さ(PD)、アタッチメントロス(AL))およびパノラマX線写真(歯槽骨喪失量(BL))による歯周病の評価を行った。歯周病が動脈硬化の発症に関与する背景に、全身の炎症反応の存在が考えられることから、炎症性マーカーについても検討した。本研究は地域一般住民を対象とした疫学調査においてパノラマX線撮影を導入した初の報告である。 本研究により、baPWVと口腔内における歯周病の拡がり(PD5mm以上部位の範囲,AL4mm以上部位の範囲, BL歯根長の1/4以上部位の範囲)との間に、年齢・性別・高血圧・糖尿病・高脂血症・BMI・喫煙歴の交絡因子で補正後にも有意な関連を認めた。同様に炎症性マーカーとPDの拡がりとの間にも有意な関連が認められた。これらの知見は、全身の動脈硬化の進行に対して歯周病の重症度が独立したリスクファクターであることを示すものである。また現在の歯周組織の炎症程度(PDの拡がり)が炎症性マーカーの値に関連することは、歯周病と動脈硬化との関連の背景に、全身の炎症反応の存在を示唆するものである。
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