研究概要 |
レニンーアンジオテンシン系は、アンジオテンシン変換酵素(ACE)によって産生されるアンジオテンシンII(Ang II)を介して昇圧作用など循環器系において重要な役割を担うことが知られているが、最初の新規ACEファミリー分子であるアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)はAng IIをターゲットとしてレニンーアンジオテンシン系を負に調節し、心血管機能の制御、心不全などに関与するのみならず、SARS(重症呼吸不全症候群)ウイルスの受容体であるとともに、急性呼吸不全において肺保護作用を発揮する(Nature 2005, Nat Med 2005)。しかしながら、その細胞メカニズム、SARSや急性肺傷害によるACE2抑制のメカニズムは不明であった。平成19年度、私達はとりわけACE2発現抑制の分子機構に着目して解析を行い、in vitro培養上皮細胞を用いた実験などからACE2の発現抑制には細胞内への内在化のみならず酸化ストレスを介したsheddingが重要であることを明らかにした(論文投稿準備中)。一方で、ACE2によって制御される新規の心血管作用性ペプチドApelinとそのレセプターAPJが最近明らかになったが、私達はApelin遺伝子欠損マウスを作製し、循環器に焦点を絞って解析を行ったところ、Apelinは、加齢や心不全の際に心機能の恒常性を維持するのに重要な機能を担うことを見出した(Circ Res 2007)。興味深いことにApelin遺伝子欠損マウスとACE2欠損マウスが非常に似通った心臓の表現型を示すことから、ACE2-Apelinとのシグナルの相互作用があることが考えられる。今後、ACE2の肺保護作用におけるApelinの役割を解析するとともに上皮細胞の傷害、酸化ストレスでのACE2の制御機構について解析を進めていきたい。これらの成果は、SARS、急性肺傷害の治療のみならず幅広い疾患の病態解明、新しい治療法の開発に貢献することが期待される。
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