研究概要 |
レニンーアンジオテンシン系は、アンジオテンシン変換酵素(ACE)によって産生されるアンジオテンシンII(Ang II)を介して昇圧作用など循環器系において重要な役割を担うことが知られているが、最初の新規ACEファミリー分子であるアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)はAng IIをターゲットとしてレニンーアンジオテンシン系を負に調節し、心血管機能の制御、心不全などに関与するのみならず、SARS(重症呼吸不全症候群)ウイルスの受容体であるとともに、急性呼吸不全において肺保護作用を発揮する(Nature 2005, Nat Med 2005)。しかしながら、その細胞メカニズム、SARSや急性肺傷害によるACE2抑制のメカニズムは不明であった。昨年度、ACE2の発現抑制には細胞内への内在化のみならず酸化ストレスを介したsheddingが重要であることを明らかにしたが、平成20年度、私達は酸化ストレスを介した自然免疫シグナルの過剰な活性化が、SARSなのみならず高病原性H5N1インフルエンザによるARDS/急性肺傷害の病態発症に重要であることを見出した。とりわけ酸化ストレスにより酸化リン脂質が産生され、これがToll-like receptor 4を活性化することを明らかにした。さらにSARSやH5N1インフルエンザのみならず幅広いARDS/急性肺傷害を引き起こした患者さんの肺病理組織においても酸化リン脂質の産生が認められた(Cell, 2008)。これらの成果は、SARS、急性肺傷害の治療のみならず幅広い疾患の病態解明、新しい治療法の開発に貢献することが期待される。
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