慢性期脊髄損傷モデルの作製と神経トレーサーによる残存・再生神経線維の同定;脊髄損傷の方法として重錘落下法が主流であるが、実際に実験を行うとラットの固定位置によって損傷程度が変わり安定した結果を得ることが困難であった。そのため血管クリップを用いて脊髄(T9)を挟むような損傷方法を開発した。同手法を用いると脊髄損傷後の下肢運動機能は、過去に報告されている重錘落下法と同様に損傷後約5-6週で回復が停止した。損傷8週間後の脊髄(損傷部を含む9mm長)の体積を組織学的に計測すると正常脊髄よりも35%減少して萎縮していた。さらにミエリンは、正常脊髄よりも約30%減少していた。損傷部周囲の神経再生については、順行性および逆行性神経トレーサーを用いて評価が可能であった。逆行性トレーサーを用いた定量的評価では、損傷部を上行する軸索は正常群と比較するとわずか3%であった。来年度は、これら定量的評価を基礎にして細胞移植や神経栄養因子の効果を確認していく予定である。 移植細胞の培養と調整;今年度は、胎児ラット海馬から単離した神経幹細胞を培養しグリア前駆細胞に誘導する実験を行った。神経幹細胞培養にはFGF2が必要であるが、グリア前駆細胞の増殖に関与するPDGFを加えて培養した。PDGF単独では細胞増殖が不十分なためFGF2を組み合わせ、さらにグリア前駆細胞のマーカーであるA2B5を培養皿にコートしておくことで選択的に前駆細胞を回収することにした。来年度は、得られた細胞の増殖と分化の程度を解析していく予定である。さらに、細胞治療の効果を確認するために同細胞を脊髄損傷モデルに移植し運動機能回復と組織学的評価を行う予定である。
|