本研究では従来の脂質平面膜法の測定方法に改変を加え、あらゆる膜系の電気生理学的測定、さらには分光学的測定との同時計測を行える測定系の開発を目指す。本年度はその基盤となる測定チェンバーの開発を行った。測定チェンバーは膜の両側の溶液潅流が行え、倒立顕微鏡上での観察と分光学的測定が行えるよう薄型・透明である必要がある。ここでの問題点は脂質平面膜が溶液潅流の振動により破れる点であるが、膜面積を小さくして膜の物理的強度を上げる試みを行った。通常の脂質平面膜法の実験では、テフロンシート等の隔壁に開けた直径約100〜200μmの小孔に人工脂質二重膜を形成させるが、本研究ではこの小孔をく50μmとした。当初は市販の小孔つきガラス基板を隔壁に用いたが、人工膜は形成されるものの溶液潅流に対しての安定性は十分ではなかった。そこで、小孔の辺縁や周辺部表面に対し、化学的洗浄と平滑化の前処理を施すことで膜の安定化を試みた。洗浄はピラニア溶液(濃硫酸:過酸化水素水=7:3)処理、平滑化は高電圧放電による溶融を行ったところ、膜の安定性を大幅に向上させることができた。実際この膜にKcsAカリウムチャネルを導入し、数時間安定に単一チャネル電流を記録できることを確認した。今後は膜の両側の溶液層、特に倒立顕微鏡にマウントした際の対物レンズ側を可能な限り薄くする検討が必要である。また同じシステムを細胞の測定にも対応させるため、小孔サイズが1〜2μm程度のガラス隔壁とHEK293細胞を用い検討を行った。膜電位固定実験では細胞を小孔辺縁部にギガオーム以上の高抵抗で密着(ギガシール)させることが必須であるが、現段階ではギガシール形成率は著しく低かった。直径が1〜2μm程度の小孔に対しては高電圧放電による平滑化処理が行えないため(小孔径が大きく広がるため)、アルカリ浸漬などによる小孔辺縁部の平滑化を今後試みる。
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