本研究では、動脈硬化促進型生活習慣病(メタボリックシンドローム)に共通する分子血管病病態の解析を目的とした。特に当該年度は、糖尿病状態における血管機能・創傷治癒能低下の分子機序に着目しその解析に従事した。【仮説】(1)老化制御因子p53がインスリン抵抗性を制御することが報告されているが、糖尿病状態における血管機能・創傷治癒能低下の病態はこのp53による分子制御が関与しているかどうか。(2)血管機能改善薬スタチンにはインスリン抵抗性改善作用があることが報告されているが、これはp53の発現を抑制することによるのかどうか。【方法】2型糖尿病マウスモデルKK/Ayに対して下肢虚血モデルを作成し、4週間アトルバスタチン(ATR)を経口投与した(2mg/kg/日)。ATR非投与群・投与群において血糖・体重・血漿インスリン値・アディポネクチン値・糖負荷試験・インスリン抵抗性評価・血管新生能評価(EPCアッセイ・aortic ring assay)・下肢脱落予後評価を行い解析した。インスリン感受性組織のIRS-1チロシンリン酸化・Akt・MDM2活性については免疫沈降法及びウエスタンブロットにより評価した。KK/Ayマウスの創傷遅延・血管新生能変化を評価するために下肢虚血モデルを作成した。血中酸化ストレスレベルをFRAS法にて測定した。【結果】2型糖尿病マウスモデルKK/Ayに対して4週間アトルバスタチンを経口投与した(2mg/kg/d)結果、体重は変化なかったが、血糖・血漿インスリン値は有意に低下した。また低アディポネクチン血症及び糖負荷試験による耐糖能も有意に改善していた。インスリン感受性組織(白色脂肪組織及び骨格筋)のIRS-1・Akt活性はアトルバスタチン群で亢進していた。血中酸化ストレスレベルは減少していた。下肢虚血KK/Ayモデルにおいてアトルバスタチン無処理群では全例の下肢壊死脱落を認めたがアトルバスタチン群では下肢壊死脱落率の低下を認め、またその血管新生能およびp53依存性創傷遅延も改善していた。【結語】アトルバスタチンはAkt/MDM2シグナリングを活性化を介してp53の分解を促進することによりインスリン抵抗性を改善させるとともに、糖尿病性創傷遅延を緩和する。
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