本研究にて、高磁場MRIにおける新しい撮像技術である拡散テンソル画像を統合失調症患者に応用し、統合失調症の白質異常の検討を行った。同時に形態異常の検討や社会認知機能障害の検討も行った。本研究によって、我々は、統合失調症患者において、前頭葉や後頭葉において白質線維連絡異常があることを明らかにし、これらの白質線維連絡異常は、大脳の様々な部位の局所脳体積に、それぞれ異なった様式で相関していることを明らかにした。これまで体積異常と白質線維連絡異常の関連を報告した研究はなく、今回の研究は独創的であると言える。また統合失調症の病態生理、特に、統合失調症では大脳局所の線維連絡に異常があると主張する"disconnectivity theory"を強く支持する研究であると考える。また社会認知機能との関連では、他人に感情移入する能力が前部帯状回の形態異常に関連することを見出した。これは性差も伴い、統合失調症の病態生理に性別が何らかの影響を及ぼしていることを、同時に示唆するものであった。健常者でも感情移入に深く関連があるとされる前部帯状回で、統合失調症で異常が検出されたことは、統合失調症の社会認知機能障害の病態生理を理解する上で有意義であったと考える。当初の研究計画では、統合失調症の患者のみならず、統合失調症の家族にまで、研究の範囲を広げる予定であったが、患者家族の協力を得るのが想定以上に困難で今回は十分な被験者数があつまらず、まとまった研究発表はできなかった。今後も引き続き、本研究を継続する予定である。
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