研究課題
慢性的なドナー不足を解消するための手段として、条件の悪いマージナルドナーや心停止ドナーからの肺移植を考慮した場合に、虚血再灌流障害(ischemia-reperfusion injury:IRI)の克服は不可避の問題であり、またIRIは慢性肺拒絶病変に関して病変進展の一因子とされ、予防対策は依然として重要な問題である。近年、低濃度の一酸化炭素(CO)吸入に細胞臓器保護作用があることが様々な小動物モデルにより報告されているが、COは有毒ガスとして広く知られているため、新たな治療戦略とするにはtranslational researchとしての大動物実験が不可欠である。研究初年度(平成19年度)はCO吸入によるIRI進展抑制効果を目的とし実験を行い、以下の結果を得た。1)ブタ左肺動静脈・主気管支を90分間遮断した後に肺の再灌流を行い、再灌流後の血液ガス、開胸肺生検、胸部X線等を経時的に評価することによって、長期間にわたり病変評価が可能となるIRIモデルを確立した。2)上記で確立したIRIモデルと、術中に250pmの低濃度CO吸入を6時間にわたり行った症例を比較し、CO吸入がIRI進展に及ぼす効果を検討した。CO吸入により副作用の出現はなく、CO非吸入症例でみられた再灌流後の血液ガスの悪化が抑制されること、更に胸部X線、組織像においても特に再灌流後早期の時点でIRI進展が抑制されていることが確認された、低濃度・短時間のCO吸入によるIRI抑制効果が示された。またCO吸入により血清中の炎症性サイトカイン産生が抑制されており、抗炎症作用を介したIRI抑制機序が示唆された。本年度(平成20年度)はこの知見をもとにブタ肺移植症例を用いた治療効果の検討へと実験を進め、CO吸入が肺移植後IRIに及ぼす効果、更に慢性拒絶病変進展抑制効果を評価し、治療法の確立を目指す。
すべて 2007
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件)
Transplantation 84(11)
ページ: 1467-73