咀嚼運動は筋の収縮力を介して顎顔面骨格の成長に関与していることが知られているものの、どのような機能特性が骨代謝に影響を及ぼすのか、その詳細については不明な点が多い。本研究ではラットを性状の異なる飼料により飼育し、咀嚼性刺激が顎骨および咀嚼筋の成長発育に与える影響を明らかにすることを目的とした。 3週齢のWistar系雄性ラット20匹を使用し、無作為に硬食群と軟食群の2群に等分した。12週齢まで飼育した後、ラットを屠殺し下顎骨を摘出した。下顎骨はマイクロCT(μCT 40)を用いて三次元構築し、得られた画像により下顎骨の形態計測と骨石灰化度の測定を行い、両群間で比較検討を行った。 下顎骨の形態計測項目として、下顎枝長、下顎骨体長ならびに下顎角を用いた。各項目とも軟食群において値が小さい傾向を示したが有意差は認めなかった。骨石灰化度の測定は下顎骨体前方および後方部の皮質骨、ならびに下顎頭の海綿骨について行なった。その結果、下顎骨体部の両皮質骨はいずれも軟食群において有意に石灰化度が高く、下顎頭海綿骨では有意差を認めなかった。 これらの結果より、粉末飼料により飼育したラットは骨形態までは影響を受けなかったものの、筋付着部位において骨石灰化度が高かったことから、骨に伝達される咀嚼筋の収縮力減少により骨リモデリングが低下していることが明らかとなった。現在下顎頭軟骨の免疫組織染色を行っており、顎関節への機械的負荷の減少による下顎頭軟骨の成長発育能に対する検討を行っている。今回の研究結果を踏まえ来年度は、両群の終日咀嚼筋電図の測定および咀嚼筋の免疫組織学的検索を行い、食物の物性が顎口腔系の形態ならびに機能に与える影響を明らかにして行きたい。
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