内分泌撹乱化学物質の作用メカニズムの解明は、分子生物学的知見をもとに新たな時代に入ったといえるが、器官形成・発達時期である胎仔・新生仔期での内分泌撹乱化学物質曝露が、将来的に成体の中枢神経系および生殖器系にいかなる影響を及ぼすかについては不明な点が多い。本研究では、胎仔期・新生仔期における合成エストロゲンDiethylstilbestrol(DES)の曝露、および作用点の異なる3種の内分泌撹乱化学物質、すなわち、ビスフエノールA(BPA)、フタル酸ジエステル(DEHP)、ダイオキシン(TCDD)の単独曝露、複合曝露を行い、下垂体機能ならびに中脳ドーパミン作動性神経への影響を解析した。その結果、DESの胎仔期曝露により、性成熟時のFSH、LHおよびテストステロン分泌の低下、ならびに精巣におけるエストロゲン受容体α遺伝子とステロイド産生急性調節性(StAR)蛋白遺伝子の発現低下が引き起こされ、特にゴナドトロピン分泌の制御は、生殖器よりもより低濃度のエストロゲン様物質で影響を受けることが示された、また、BPA、DEHP、TCDDの単独投与では、中脳A8、A9、A10の各領域のTH発現ニューロン数およびTH染色強度が、対照群と比較して有意に減少したが、複合投与群ではいずれの週齢においても有意な差はみられなかった。単独曝露による作用が複合曝露によって打ち消されたことから、環境中微量化学物質作用の複雑さ、ならびに複合汚染に対する新たな側面を示す重要な成果を示すことができた。下垂体のFSH、LHに特異的なβサブユニット遺伝子におけるDNAメチル化解析については再現性も含め、現在検討中である。
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