まず、腹部大動脈Banding(AB)による左室肥大モデルを作成した。AB後4週間経過した時点では、尿中カテコラミン軽度上昇と心エコーで軽度左室肥大傾向を認めるが、左心機能は良好であった。この状態から、4週間高食塩食負荷(AB-H)と通常食投与(AB-R)との群を作成した。その結果、AB-H群は、AB-R群に比べ著明な交感神経活性、有意な左室壁厚、左室拡張末期径の増加、左室収縮能の低下を認めた。Sham群に高食塩食負荷を行っても、交感神経活動の変化はわずかであり、ABにより高食塩負荷による交感神経活性化の反応が増強していると考えられた。さらに、高Naの人工脳脊髄液をsham群に浸透圧ポンプを用いて脳室内に投与すると、AB群程度に交感神経活性の亢進を認めたことから、高食塩負荷による交感神経活性化の反応増強は、脳室内へのNa取り込み亢進が重要であると考えられた。そのため、実験計画では平成20年度の予定であるが前倒しで以下の実験を行った。Na取り込みを抑制する目的で、脳室内にENaC阻害剤(Benzamil)の持続投与を高食塩食負荷マウスに行った(AB-HB)ところ、AB-H群に比べ、AB-HB群は、有意に交感神経活動抑制を伴って、左室収縮能の改善と左室径の縮小を認めた。これまでの結果から、4週間のABによって、脳内ENaC活性化による脳室内Na取り込みが亢進し食塩摂取による過剰な交感神経活性化を生じ、心機能低下(心不全増悪)を促進する可能性が示唆された。現在、Rho-kinaseとの関連を検討中であり、preliminary studyでは脳室内Rho-kinase阻害剤投与がBenzamil以上に、心機能低下抑制作用を持つことが示唆された。今後は、ENaC/Rho-kinaseの活性の評価、他の心不全モデルで検討する予定である。これまでの研究成果は、平成20年4月にアメリカ生理学会、6月に国際高血圧学会で発表予定(演題採択)である。
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