本研究は高血圧心臓病モデルとして圧負荷モデルを作成し、食塩負荷が心機能に与える影響とその機序を特に“脳"(交感神経活動)をターゲットに検討することであった。ICRマウスの腹部大動脈をBandingし、圧負荷モデルを作成した。作成4週間後に、高食塩食(8%)と通常食群に分け、さらに4週間経過した時点で各種評価を行った。コントロールとしてSham群を作成した。Sham群に比べ、圧負荷群では心肥大と心機能低下を生じたが食塩負荷群でより大きく変化を認めた。また、交感神経活動も高食塩群で著明な増加を認めた。この交感神経活性活動亢進は、心機能低下が生じる前(食塩負荷開始5日目)でも生じたことから、心機能低下→交感神経活性化ではなく、交感神経活性化→心機能低下であることが示唆された。Sham群では、高食塩負荷での上記パラメーターの変化はなく、圧負荷群では食塩に対する交感神経活動の反応性が亢進していると考えられた。続いて、この食塩負荷に対する反応性変化への“脳"の役割を検討するため、高Na脳脊髄液を脳室内に投与するモデルを作成した。通常食投与に拘らず、Sham群、圧負荷モデルで交感神経活動の上昇を認めた。しかし、その反応性は圧負荷群でより大であった。以上のより、圧負荷モデルでは、脳内へのNa取り込みと取り込まれたNaに対する交感神経活動の反応性が亢進していることが示唆された。 さらに圧負荷モデルでの脳内Na感受性亢進の機序を検討した。本研究では、脳内はじめ腎臓などでNaハンドリングに関わる上皮型Naチャネル(ENaC)とその上流に存在するとされているRho-kinase系の関与を検討し、圧負荷モデルでは、脳内Rho-kinase系、及びENaCの活性化が生じ、それぞれの阻害剤の脳内投与が食塩負荷で生じる交感神経活性化や心機能低下を抑制することを明らかにした。
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