虚血における神経細胞死には、cyclooxygenase-2(COX-2)の発現、Prostaglandin E_2(PGE_2)の生成、EP1受容体の活性化が関与していることが報告されている。しかしその研究成果は動物実験レベルであり、実際に人間においてそのような系が働いているのかは不明である。本研究において、将来的なEP1受容体阻害剤の臨床応用を踏まえ、まず人間にEP1受容体が存在するのかを検証した。 1.当科にて入院、手術を行った患者の正常脳組織を用いてEP1受容体の免疫染色を行った。結果としては、正常大脳皮質および海馬錐体細胞層において神経細胞にEP1受容体の染色が認められた。現在その細胞内局在、他の酵素とのinteractionにつき新たな知見が得られつつあり、現在検証中である。 2.脳梗塞周辺、脳腫瘍およびその周辺、脳動脈瘤、頚部プラーク等の病理組織におけるEP1受容体の発現について免疫染色を行い検討中である。 現時点の結果により、人間の神経細胞においてEP1受容体が存在することが証明された。またCOX-2→PGE_2→EP1受容体の活性化という系が存在していることが示唆されている。このことにより、臨床的に脳梗塞の病態においても、その系が関与していることが推察された。EP1受容体阻害剤を脳梗塞急性期に投与することにより、脳梗塞巣の範囲が減少し、死亡率、後遺症の軽減が期待できるものと思われる。今後の展望としては、人のサンプルにてEP1受容体およびその周辺酵素についてさらに検討を加える。また、マウス中大脳動脈閉塞モデルにて作成された脳梗塞を、選択的EP1受容体阻害剤であるSC-51089を用いて治療して、脳梗塞巣の体積で薬剤効果を判定する。その際、投与方法、投与回数などについて検討を加える。また、将来的な臨床応用を視野にいれ、薬剤の安全性について検討を加える。以上の実験を行い、新たな脳梗塞治療薬の開発につながる研究を行う予定である。
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