レニン・アンジオテンシン系(RA系)は、血圧や体液量の調節システムであり、種々の循環器疾患の発症や進展において重要な役割を果たしている。近年、組織RA系の重要性が指摘されてきたが、その生成・変換機構および役割に関しては不明な点が多い。研究代表者は2006年に組織RA系の因子と考えられるプロアンジオテンシン-12(proang-12)をラット小腸より単離・同定した。そこで本研究は1)ヒトproang-12を単離・同定し、さらにアンジオテンシン関連ペプチドの系統的探索を行う2)様々な疾患におけるproang-12の病態生理学的意義を検討する3)proang-12の生合成およびAngIIへの変換機構を解明することを目的として行った。 ヒトのproang-12の単離・同定に関しては複数のRA系関連ペプチドを認識可能なラジオイムノアッセイ(RIA)を確立し、胎盤・尿より単離・精製を終了した。精製したペプチドは、質量分析装置にてアミノ酸配列を決定中である。また低塩刺激により血中RA系を活性化させ、RA系因子の変化を観察したところ、低塩食群で血中および組織中のAng I、Ang II濃度は上昇したが、proang-12の濃度に変化はなかった。さらに高血圧自然発症ラットにアンジオテンシンIIタイプIレセプタープロッカーおよびアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬を投与したところ、両群において血中のAng I、Ang II濃度は上昇したが、proang-12濃度には、変化がなかった。一方で、薬剤投与の両群において組織中のproang-12濃度が低下し、同様の低下が組織中Ang II濃度にも観察された。これらの検討によって、レニンに依存する血中RA系とproang-12を介する組織中のレニン非依存性のアンジオテンシン産生経路が相互に独立して存在する可能性が示唆された。
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